平成19年10月に初診で来院された66歳の男性患者さんです。
15歳の頃より突然頻尿が出現し、大学病院3軒を含めさまざまな病院を転々と受診しましたが治りません。
頻尿は1日20回、夜間頻尿4回、尿がたまるとペニス先端の尿道が痛くなります。
超音波エコー検査では、前立腺の大きさは27c(正常20cc以下)と若干大きめです。
α-ブロッカーの服用により、頻尿は10回程度の納まってきました。夜間頻尿も2回になりました。尿道の痛みも3割は減少しました。
膀胱括約筋は肥厚し、前立腺結石も認めます。
また、膀胱三角部もとても肥厚し、膀胱の過敏さを示唆しています。
尿流量測定検査(ウロフロメトリー)では、ご覧のような勢いのない排尿曲線、前立腺肥大症型です。
しかし、その後、それ以上の症状改善をみないまま年月が過ぎ、最近になり物忘れが多くなって心配になりました。
排尿障害があると認知症などの精神機能低下が知られたエビデンスです。入れ歯が合わなくても認知症が進むことがあります。人間の体は単なる臓器の集合体ではなく、全体が具合悪くなると一つの臓器が具合が悪くなり、一つの臓器が具合が悪くなると全体が具合悪くなるという密接な関係があるのです。
平成22年7月に本人の強い希望で内視鏡手術になりました。
手術前の10カ月間にプロスタールを服用していただいて、前立腺の大きさは27ccから17ccにサイズダウンしていました。前立腺が小さければ手術中の出血も少なく手術も容易です。
手術直前の膀胱出口です。
膀胱出口の6時の「柵形成」が硬く視野を妨げています。麻酔下での膀胱出口は3mm足らずです。前立腺尿道粘膜に石灰や炎症性ポリープを多数認めます。
手術直後の所見です。
前立腺肥大症も併発していたので、膀胱出口・膀胱頚部も含めて前立腺も切除しました。直径5mmの内視鏡手術電気メスが余裕で通過できるまでになりました。膀胱三角部も合わせて処置しました。
【備考】
この患者さんは15歳の時、左臀部(おしり)にヘルペス(帯状疱疹)が発症し、その後から頻尿になりました。
下半身の帯状疱疹(ヘルペス)で神経因性膀胱に一時的になる方がいますから、おそらくヘルペスの後遺症で自律神経炎におなり、膀胱頚部の開閉不全の排尿障害が、今回の51年間苦しんだ「慢性前立腺炎」症状の原因だったのでしょう。